ニューシネマ・パラダイス

ニューシネマ・パラダイスは僕の好きな映画のひとつ。「絶対に一度は観た方がいいよ」と薦められたのがきっかけで、とっくに大人になってからだったけど、激しく感情を揺さぶられた記憶があります。なにせ、音楽が素晴らしかった。僕らの親世代にとっては心に残る名作の一つになるであろうこの作品。今度、友人の結婚式で弾こうと決めました。友人には「きっと両親、喜ぶよ」と言っておきました。結婚式に呼ばれると、2回に1度は演奏を頼まれる。これは仕事柄の宿命なのです。

 親しい友人の結婚式での演奏はもちろん最高の楽しみなのですが、ずっとクラシック畑を歩んできたもので、毎度演奏曲については多少悩む事になります。リクエストを聞いて答えられる程、世のヒット曲に精通している訳ではありませんからね。クラシックのなかでも、かなりマイナーなところを好む傾向すらありますし。でも、ポピュラー音楽、映画音楽の中にも時々、これは!という曲に出会います。ニューシネマ・パラダイスのゆるやかなルバート調のイントロで始まり、「愛のテーマ」へ繋ぐ。きっと涙を誘うこと間違いなし。ただ、乾杯後あまり酔っぱらってない時間で弾きたいですね。ああ、たまらなく映画が観たくなってきました。

美音の架け橋

お世話になっている調律師M氏のもとオーバーホール中のスタインウェイを試弾しに、関門海峡を超え山口県へ出かけました。福岡生活にどっぷりつかった今の僕には、海峡を超えることは異国の地に足を踏み入れるようなもの。新幹線で海底トンネルを通ることは多々あっても、陸の上から関門海峡を見渡すのはどれくらいぶりだろう。たぶんその記憶は子供の頃にまで遡らなければなるまい。本州と九州を隔てるわずか数キロの海の道。晴天だったこともあり、穏やかな港の景色が群青色の空に生え渡っていました。日本的な情緒ある風景です。車で橋を走り抜け、この先に待っているスタインウェイピアノとの出会いに心躍らせます。

ショールームとオーバーホール中のスタインウェイが待つ工房の両方で何台かのグランドピアノを試弾させて頂きました。目当ての小型スタインウェイグランドは1930年代のボディとは思えない眩い輝きを放っており、ニューヨーク製らしい明るく弾んだサウンドを持ち合わせています。タッチ感もよく調整されており、残すは整音作業でオーナー好みのサウンドに近づけていくとのこと。ただ、基音の重量感、弾きごたえの不足感がどうしても拭えず今回はパスすることに。これはサイズによるところの限界なのかもしれません。他に試弾したもので、整備済みの素晴らしいヤマハグランドが目にとまり、とりあえず新居で練習するピアノが必要だったので代わりにこちらを購入。スタインウェイについては希望の型と年代を伝えて入荷情報を気長に待つことにしました。新居に防音室を作ることを決め、その部屋に丁度いいピアノを探すべく知り合いやネットの情報を集め始めて二ヶ月ほどが経過。ピアニストにとっての楽器選び。こだわりだすとキリがない世界ですが、都市部の住居環境ゆえの妥協もあり難しい選択です。ひとまずこれで引っ越しからのゴタゴタがひと段落しそう。

大陸から聴こえる静かなチェロ

久しぶりにコンサートのご案内です。最近はチェロと共演する機会が多く、私の中では密かなブームとなっています。アルト・ノラスのアルバムを寝る前に聴く事もしばしば。静かな夜更けはチャイコフスキーの白鳥に始まり、最後はシューベルトのアルペッジョソナタへ。懐の深い音色といい、発音の自然さといい、他のどの楽器でも味わう事が出来ない満足感がチェロにはある。

 

さて、今回初共演となるワンジミンさんは中国の大連に生まれ、牧師の家庭に育ったという。兄にチェロを習い故郷の音楽院を卒業後はウィーン、カルフォルニア、東京と渡り歩いたそうです。勝手な想像かもしれませんが、彼の音色が持つ敬虔で朴訥な響き、あるいは高貴さにはどこか血統のような脈絡を感じます。ワンさんの演奏は決して派手ではなく、情熱的に聴き手に迫ることもあまりありませんが、聴いているうちにその大陸的ともいうべき大きな器に包みこまれ、いつのまにか音楽に浸ってしまう。そんなタイプの演奏家だろうと思います。現在の活動は主に北九州方面が多いのですが、今回は福岡のあいれふホールで意欲的なプログラムに挑みます。5月2日(火)19時開演

JASRAC 問われる存在意義

日本音楽著作権協会が音楽教室から著作権料を徴収する方針を固めたことでマスコミ数社が報じいます。そういえばちょうど先日、私のもとにジャスラックから督促状が来ていました。年末に行ったコンサートで一部の曲目が著作権料徴収の対象だったのです。NHKの受信料の時もそうですが、「音楽文化をまもる」の封筒を見だけでドキッとします。NHKの場合はコンテンツがあるだけにまだ納得はできるのだけれど。それにしても、ほぼ身内で行った小さなコンサートなのにどこで調べたのだろう。「作曲家の死後50年」という文言だけは知っているので、とりあえずそれ以前の曲目なら問題ない話なのです。しかし、今回は思いもよらない曲がひっかかっていました。作曲家先生が結構長生きされていたという訳で。まあ、これは私の不注意ですから督促に従って二千円程払って済みました。
ところが今回報じられたニュースはどうでしょうか。音楽教室ではバッハやベートーヴェンなどクラシック音楽が教材として用いられる一方で、有名な映画音楽やポップスが使われることもあるでしょう。楽譜に使用されている場合は当然私たちユーザーは著作権料を含めた代金を支払っていますよね。それなのに今度は、それをレッスンで弾く行為においてもお金を取ろうというのです。これは、何か違うのでは。しかもその金額がJASRACが求めるところ月謝の2.5パーセント。ヤマハとカワイの二社だけでその徴収額はおよそ20億円近くにのぼるというから驚きです。何とも解せませんね。J-POPの最盛期に比べるとJASRACの収益が激減していることは用意に想像がつきますが、その穴埋めとして音楽教育産業がターゲットになる時代。なんだか世の中がぎすぎすしてしまって、嫌な感じですね。「音楽文化を守る」ために、やはりここは抜本的な組織改革しか残された道はないのではないかと、個人的には思います。そして、一般の企業や個人が努力しているように音楽文化を育てる事業にエネルギーを注いで欲しいものです。