再燃、ゴルドベルク変奏曲

このところ二ヶ月程は真剣に弾き込むことはなく、時間を気にせずに新曲の譜読みを進めていました。20代の時は目標を達成することにこだわっていたから、練習をする時にも、この曲はいつコンサートに出すので何日までに譜読み、弾き込み、通しリハーサルを決行、というように段取りを決めてかかっていたけれど、30歳くらいになると(というか、今だけの気分かもしれない)もうちょっと気の向くままにピアノを弾きたいと思うようになりました。そんな時に着手したのがゴルドベルク変奏曲。この曲への畏敬の念は他のどの音楽作品よりも大きい。出会いまで遡ると、かれこれ17年くらいになるだろうか。まさに音楽への志を立てたとき、傍らにあった楽譜こそゴルドベルク変奏曲だったのですから。これまでに何度か楽譜を開いて弾き始めたことはあったものの、長大であり尚かつディテールを詰めるのが果てしなく厄介な曲だ。長大という点だけならば、シューベルトのソナタ、リストのハ短調ソナタやダンテ、ベートーヴェンのいくつかのソナタなども比較になるでしょう。ところが、ゴルドベルク変奏曲の場合は特にディテールにこだわり始めると収集が着かないほど難しいし、30の変奏曲を有機的な繋がりで見たときには、巨大な壁が立ちはだかっているような気がする。いや、壁に立ち向かうというより、終わりのない旅にでかけるような気分だろう。結局は、まとまった時間がとれずに、これまでも楽譜を開いては放り投げていたのです。今回は散発的ではあるけれど、弾き始めてから二ヶ月が経過しました。後半の三分の一に当たる10曲を譜読みしましたから、恐らくこのまま全曲まで進んでいくと思います。

 

音源も聴き始めました。取り出したのは若きグレングールドの録音。20歳で鮮烈なデビューを飾った時のものです。僕は若いときにグールドの晩年50歳の録音に触れ、そちらの盤をよく聴いたので、若かりしグールドの録音はとても新鮮でした。ドライブ中の車内で二回。爽やかなバッハが時を駆け抜けて行きました。ほんと、あっと言う間に。テンポについて言うと、20歳の録音は今の僕にとっては少し速すぎるし、50歳の録音は少し遅い。年相応のテンポがあるのだろう。さあ、どうしたものか。これから二年くらいは穴に潜る必要がありそうですね。