天才画家フェルメールと天才贋作者メーヘレン

フェルメールは好きな画家の一人。オランダ留学時代にフェルメールの何点かを観る事ができました。素朴な題材と見事な技法。そしてさり気なく使われた高貴なブルーが好きでした。昨夜は何気なくTVチャンネルを合わせていると、オランダの首都アムステルダムの中央駅がふと映ったのでそのまま見続けました。2時間もある番組を最後まで見るのは本当に稀なこと。僕が通っていたアムステルダム音楽院はこの中央駅近くのウォーターフロントにありました。東京駅のモデルにもなった赤煉瓦の重厚な建築物。滝川クリステルがアムステルダム、デルフト、ライデンの街と美術館を歩き、後半はフェルメールの贋作を描いたメーヘレンの謎に迫るものでした。

 

私たちが観て、すぐにそれと分かるフェルメール作品はオランダの素朴な生活と人々を描いた小さな絵。美しいウルトラマリンの色が用いられた、これぞフェルメールという世界があります。フェルメールも若い時期には宗教画で鍛錬を積んだらしく、現在は僅か2点のみ秀逸な宗教画が残されているようです。その宗教画とフェルメールが到達した小さな世界にはギャップがあり、その間にあたる時期の作品は見つかっていない。そこで天才贋作者メーヘレンは空白の時期にフェルメールが"描いたかもしれない"ような絵を書きまくって大金を儲けたのです。クラシック音楽に置き換えるなら、モーツァルトの作品らしきものを、後世の作曲家がでっちあげるようなもの。プロが技法を真似ることに徹すれば、世間や専門家を騙せるのかもしれません。つい昨年はラフマニノフかブラームスっぽい曲を書いた人が世間を騒がせましたし。

 

贋作者メーヘレンは最後にナチスドイツにフェルメール作品と偽った自分の絵を売って、引き換えにオランダの古典派絵画十数点を取り戻したとか。そのことでオランダからはフェルメールを売った国家反逆罪で捕まりました。疑惑を晴らすために、メーヘレンは公開の場でフェルメールっぽい絵を描きます。釈放されて2ヶ月後、自身の名で絵を描き上げる前にこの世を去ったそうです。映画にしてほしいような面白いストーリーですよね。絵にはミステリーがたくさんありますが、目には見えない音楽にも本当はミステリーが山のように隠されているのでは、と思うのです。