巡礼の年「ル・マル・デュ・ペイ」を聴き比べる

クラシック音楽の楽しみの一つは、同じ作品を違う人の演奏で、様々な角度から眺め味わうことだと思います。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」でスポットを浴びた「ル・マル・デュ・ペイ」を聴いてみました。恐らく、村上春樹の小説に登場しなければ、この小さなピアノ曲は、マイナーな「巡礼の年」シリーズの中のささやかな一曲として、ひっそりと生きていたことでしょう。

 

まずは、小説で灰田氏が勧めていたベルマンの演奏で。

http://www.youtube.com/watch?v=Y-oZPh3LzNg

平坦な録音が気になるものの、確かに内面を捉えた耽美的な演奏です。続いて、画面横にリコメンドされたブレンデルの映像を。

http://www.youtube.com/watch?v=tXjXc35YBQI

こちらも素晴らしいですね。ややテンポがもたつく感じと、「意味ありげ」な感じがミスマッチな気もします。エリが慣れ親しんだのは、ブレンデルによる演奏。つくるはブレンデルの「ル・マル・デュ・ペイ」を、ベートーヴェン的で格調があると評していますが、より好きなのはベルマンの耽美的な解釈だと言っています。物語りは、ベルマンの耽美的な雰囲気で覆われていました。そして終盤、つくるとエリの再会シーンで、ブレンデルの意志がありエスプレッシーヴォな「ル・マル・デュ・ペイ」が重なります。まるで、エリの半生がオーバーラップしてくるみたいです。そして、つくるの人生もようやく前へ押し出されるように動き始めるのです。

 

ブレンデルはベートーヴェンやシューベルトの解釈では圧倒的な存在感があり、時には楽曲とのミスマッチに思える「ブレンデル節」も含めて、僕は好きです。ベルマンのリストと、どっちが好きかと聞かれると、難しいですね。もう一回聴いてみよっと。クラシック音楽は、こんな楽しみ方もありです。