音楽の源流

先日、中高時代の恩師にコンサートに誘われて、久しぶりにピアノリサイタルを聴きました。スウェーデン生まれで、ドイツの大学で長年教育者としても活動されたピアニスト、アルネ・トルガー氏。なんでも、来日前に足を骨折したとの事で、老体に加え松葉杖というハンディを背負っての演奏でした。怪我したのは右足なので、ペダリングが大変だっただろうと思います。いかにも先生という風貌で、飾り気がない折り目正しい演奏でした。ベートーヴェンの「月光」、リストの「ペトラルカのソネット」より2曲、ショパンの「バラード4番」、シューマンの「クライスレリアーナ」で構成されたザ・ピアノリサイタル。際立ったのはシューマンの2曲目でした。折り重なる旋律が交わっては離れながら浮遊し、10分程続くゆっくりした曲想の中に、会場全体がゆったりと身を委ねているようでした。このコンサートで見たのは、ドイツ(スウェーデン?)の深い森の中に脈々と流れるクラシックの源流だったように思います。トルガー氏の師であるハンス・ライグラフは数多くの優秀なピアニストを輩出した教育者。今でも世界各地で人から人へ、その音楽の源流が受け継がれています。今回のコンサートでは小さい子供の姿も多く見られたのですが、驚く事に皆お行儀よく2時間のコンサートを聴いていたのです。その後ろ姿に、クラシック音楽の未来を感じたのでした。