グレン・グールドは永遠に

没後30年ということで、BSで特集がありました。書店の音楽書のコーナに立ってみると気がつく事ですが、グールド程関連書が出版されている演奏家はいないでしょう。僕自身、10代の頃に熱心に聴きました。その魅力に取り憑かれるファンが後を絶たないというのは納得です。真夏にコート、低いボロボロのイスなど昔から逸話にも事欠きません。ところが近年、以前にも増してグールドの残した音源からかけ離れ、話題を呼ぶネタ作りがせっせとなされているようで、何とも不可解な気分です。服装、食生活、さらには女性関係に至るまで、ワイドショーにも度が過ぎる。今日の番組ではグールドの愛食していたビスケット(カナダでは何処のスーパーにでも売っているらしい)まで登場しました。あとファミレスでスクランブルエッグを毎日食べていたとか。異端児、奇才、天才、個性、こだわりなど、芸術家を彩る言葉の裏付けなのでしょう。欧米では毎朝卵を食べるのはあたりまえ。ゆで卵、目玉焼き、スクランブルエッグ派に別れる。それに50年も昔のカナダに何種類もビスケットがありますかね。パッケージを見たところ日本のビスコみたいなものです。言ってしまえば僕だってほぼ毎朝バナナを食べているし、コンビニでは同じ水しか買わないのだ。スターではないので話題にしても仕方ないけれど。

 

音源紹介では、今までのピアニストはこんな風に弾いていたのをグールドだとこう。といった感じで、他の個性溢れる往年の巨匠が伝統に捕われた古い演奏で、グールドは斬新で個性的と言っています。またクラシック音楽では作曲家が王様で演奏者は家来。グールドはそうではなかった。など意味不明で幼稚なグールド論が展開されているではないか。テレビなので分かりやすいが最優先なのでしょう。やはり演奏をしっかり聴いて欲しい。もちろん素晴らしいと思います。個性的だと思います。でも他にもいろいろ聴いてみると、弾き手によって全く作品の見え方が変わります。ゼルキンとルービンシュタイン、ブレンデルとポリーニなどひっくり返したように違う。びっくりします、こんなに違った人が同じ分野で輝けるのかと。ワイドショーは十分なので、グールドを通じてクラシック音楽全体に興味が湧く取り上げ方をして欲しいです。